SPECIAL FEATURE
古今東西、歴史に名を残した偉人たちの中には、酒を愛し、その飲みっぷりで語り継がれる者は少なくない。酩酊の果てに生まれた逸話や、酒を共にしたからこそ生まれた名作、時に酒は、自由な発想や大胆な表現を引き出す「創造の燃料」として、偉大な芸術家たちに新たなインスピレーションを与えた。
一方で地域の風土、気候、土壌は、その土地で作られる酒の味わいに直接影響を与えるため、酒は風土を反映した身近な文化的産物のひとつ。酒を通じてその土地の歴史や人々の暮らしに触れることができ、紀行文学や旅の体験にはしばしば登場する。特に日本では「一杯の酒を交わす」という行為が、親交を深める伝統的な手段とされる。
ワインの歴史を紐解くと、紀元前6000年から4000年頃のコーカサス地方(現在のジョージア、アルメニア)やイランの山岳地帯にまで遡り、何千年にもわたる人類とブドウの関わりの物語があり、文化、宗教、経済、芸術など、さまざまな側面に影響を与える。日本酒の起源は、少なくとも紀元前3000年の縄文時代まで遡るとされ、日本酒の原型は、自然発酵による米の発酵酒だったと考えられている。古代の酒は「口噛み酒」と呼ばれ、女性たちが口の中で米を噛んで唾液中の酵素で発酵を促す方法が使われ、神事や祭祀の一環として、神々に供える「御神酒」としての役割があった。やがて、米を麹菌で糖化させる技術が導入され、より効率的な日本酒の醸造が可能となり、現在の日本酒作りの基礎となっている。
Category : 歴史
Date : 2024.09.26
新洋酒天国(佐治敬三著/文藝春秋刊)
酒飲みの心理学(中村希明著/講談社刊)
酒と健康(高須俊明著/岩波書店刊)
日本酒をめぐる状況(農林水産省)
お酒にはどれくらいの税金がかかっているのですか?(財務省)
Global status report on alcohol and health 2018 (WHO)
酩酊は、文学において現実を超えた幻想や感覚の変容を描く重要なテーマで、作家たちは酩酊状態を通じて、現実逃避や自己の深層探求、時には破滅へと向かう人間の姿を描いてきた。エドガー・アラン・ポーの恐怖文学から、シャルル・ボードレールの詩的表現、さらにはドストエフスキーやフィッツジェラルドによる破滅的な酩酊の描写まで、酩酊は文学作品において深い象徴性を持っている。フランスの詩人シャルル・ボードレールは、酩酊は、単なる飲酒による酔いではなく、人生の意味を見つけるための意識の高揚を象徴するという。
信仰に目を向けると、キリスト教におけるパンとワインは、聖餐(せいさん)や聖体拝領と呼ばれる儀式で中心的な役割を果たし、イスラム教では預言者ムハンマドの教えによって飲酒が禁止されている。ユダヤ教における飲酒の位置づけは、完全に禁止されているわけではなく、むしろ宗教的な儀式や祝祭において重要な役割を果たし、仏教徒が守るべき基本的な戒律「五戒(不殺生:生き物を殺さない、不偸盗:他人のものを盗まない、不邪淫:不道徳な性行為をしない、不妄語:嘘をつかない、不飲酒:酒を飲まない)」から、仏教徒の飲酒は禁止されている。
一方で酒を神聖視し、神々への捧げ物や儀式の一環として使う信仰は、世界中の宗教や文化に見られる。ギリシャのディオニュソス(ローマではバッカス)やインドのソーマ、古代ケルトのミード(蜂蜜酒)、日本の神道における日本酒など、酒は神聖な存在とのつながりを強め、現実を超える感覚や精神的な体験を提供するものとされてきた。
世界には酒にまつわることわざが山ほどあり、酒がもたらす楽しさと、時に引き起こす悲劇的な結果の両面を伝えてきた。これらの言葉は、酒に対する節度と自己管理の重要性を強調し、飲み方によっては薬にも毒にもなることを警告している。古代中国や日本の文学にも登場する「酒は百薬の長」や「酒はうれいの玉箒」といった表現は、酒が心身に与える影響を象徴的に語り継いできた。
フランスの画家ピエール=オーギュスト・ルノワールは、「時は金なり」といった表現を作品内で具現化し、時間の流れや人間の有限性を描いた。短い形式の中で広範な世界観や深い感情を伝える俳句や川柳も、ことわざの影響を強く受ける。ヨーロッパを中心とした画家たちは、酒を日常生活や社交の象徴として取り入れ、その描写を通じて当時の社会や習慣を表現した。また、酒神バッカスのように、神話や宗教における象徴的な意味合いも深く関係する。さらに、印象派やポスト印象派の画家たちは、時代の風景や人々のライフスタイルを反映させた作品において、酒を含む場面をしばしば描いている。
8世紀頃からケルトの修道士が穀物を発酵させて蒸留し、薬用酒として「アクアヴィテ(aqua vitae、命の水)」と呼ばれるアルコール飲料を作り、15世紀にアイルランドで「ウィスケ・ベーハ(uisce beatha)」と呼ばれる蒸留酒が登場し、「ウイスキー」の語源とされる。世界史に頻繁に登場するジン(Gin)は、ジュニパーベリー(Juniper Berry)で香りづけされた辛口な蒸留酒で、いまではカクテルの定番。16世紀のオランダで生まれた薬用酒「ジュネヴァ(Genievre)」を起源に持ち、英国で「ジン」として広がり、18世紀には「狂気のジン時代(Gin Craze)」と呼ばれる大流行を巻き起こし、ロンドンの町は酔っ払いであふれた。
酒は風土を反映し、地域の風土、気候、土壌は、その土地で作られる酒の味わいに直接影響を与える。例えば、日本酒は、米と水の質が味を決定づけ、地域ごとに異なる特徴を持つことが知られる。同様に、フランスのワインやスコットランドのウイスキーなど、各地の気候や地理的条件が、その土地特有の酒を生み出す。製造方法は大きく醸造酒、蒸留酒、混成酒に大別される。旅人がその土地の酒を味わうことは、風土を体験する一つの方法で、酒を通じてその土地の歴史や人々の暮らしに触れることができる。
WHO(世界保健機関)の調査によると、世界の飲酒人口は、宗教上の理由などにより飲酒しない人が約31億人(成人人口の57%)、飲酒している人が約23億人。2019年に15歳以上でアルコール依存症など健康を害した人の数は推計4億人。このうち、2億900万人がアルコール依存症という。アルコールによる死亡者数は、年間260万人(2024年6月)で、全死亡数の4.7%を占め、男女比率は、男性が76.9%。
健康リスクがあるにもかかわらず、太古の時代から人類が飲酒を続けてきた理由には、清潔な飲み水の入手が困難だった古代では、アルコールを含む飲料は腐敗しにくく、病原菌が繁殖しにくいため、水よりも安全な飲み物+栄養素を含むエネルギー源と見なされたことに加え、宗教的儀式や祝祭、儀礼の一環として酒が使用され、飲酒の習慣を促進したと考えられている。
また、酒税の起源は古代エジプトやメソポタミア文明に遡り、ビールやワインの製造に税を課すことで、政府の財源として利用。古代ローマやギリシャでも同様に、酒類に対する税は国家の財政基盤の一部だった点も見逃せない。19世紀から20世紀にかけて、工業化と都市化の進展により酒類消費が増加し、各国政府は酒税を強化して財源を確保する一方で、過剰消費による社会問題を抑制する目的もあった。アメリカでは1920年代の禁酒法(Prohibition)時代に一時的に酒類の製造や販売が禁止されたが、密造酒が横行し、税収の減少や犯罪の増加が社会問題となった。
奈良時代から平安時代まで、日本酒の製造は主に神事や祭事に関連し、酒造は、主に寺社や豪族などの特権的な集団によって行われた。室町時代には、商業的な酒造が発展し、酒造家からの「運上(うんじょう)」と呼ばれる納税が始まる。明治5年(1872年)、日本初の酒税法が制定され、政府は全国の酒造業者に酒税を課すことで安定した財源を確保。酒税は国の歳入の重要な部分を占め、最大で政府の歳入の3割以上を占めた。日本の「チューハイ」は、酒税法におけるリキュールとスピリッツの2つに大別され、スピリッツとは、広い意味で蒸留酒。 代表的なものとして、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラなどを分類。リキュールは、スピリッツに香味成分を配合し、別種の味わいに仕上げたもの。
今日では、酒税は多くの国で重要な財源と同時に、酒税を上げることで、飲酒の抑制を図る国も多くあり、健康政策の一環としても利用される。日本でも、少子高齢化や消費者の嗜好の変化に伴い、酒税の見直しが議論されている。
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