神話クエスト

フランスで若い女性に人気の名前に「ダフネ（Daphne）」がある。ギリシア神話に登場するダフネという名前の美しいニンフ（nymphe：妖精）でも知られ、ダフネの語源はギリシア語のローリエ（laurier：月桂樹）。生理用品名の由来ともなった。地名の例では、イタリアのナポリは、ギリシア語のneo（新）とpolis（都市）をつなげたneopolis（新都市）が短縮されてnapoliと呼ばれるようになった。写真はアポロ神とダフネ（ボルゲーゼ美術館）。

ローマ神話で農業を司る女神ケレス（Ceres：ギリシア神話ではDemeter）は、シリアル（Cereal：穀物）が語源とされ、CerはCreに転換され、シリアル（Cereal）は、フランス語では三日月（Crescent）になり、パンのクロワッサン（Croissant）に、また英語のクリーチャー（Creature：神が創り出した創造物）やクリエイション（Creation）が生まれ、「in」が付いたインクリース（Increase：増える）や、「re」が付いたリクルート（Recruit：新採用）になった。写真は4世紀半ばに描かれたケレス（壁画）。

記憶を思いおこす女神ムネモシュネ（Mnemosyne）とゼウスの間に生まれた9人の女神ムーサ（Musa）は、文学、美術、科学、音楽、歴史、劇、歌、舞踊、天文の女神ミューズ（Muse）たち。ミュージアム（Museum：美術館）、ミュージック（Music：音楽）、アミューズメント（Amusement：娯楽）などは、女神ムーサ（Musa）が語源とされる。写真は160年頃に大理石に彫刻されたムーサ。

ギリシア神話に登場するキャラクターでも、特に名の知れた「メデューサ（Medusa）」は、ゴルゴーン3姉妹の3女で、宝石のように輝く目を持ち、見たものを石に変える能力を持つ。もともとは美少女だったが、アテーナの怒りをかい、頭髪は無数の毒蛇で、イノシシの歯、青銅の手、黄金の翼を持つ姿に変えられた。画像はイタリアの画家ミケランジェロ・カラヴァッジオが描いたメデューサ。

北欧神話は、キリスト教化される前のノルド人（ノース人）の信仰に基づく神話。北欧神話の神々は不死ではないため、老いることのないよう、イズンの黄金のリンゴを食べなければならない。画像はJ・ペンローズの1890年の作品。J・R・R・トールキンの「指輪物語」は、北欧神話に強く影響を受けた作品といわれる。

インド神話に登場するカーリー（Kali）は、ヒンドゥー教の女神で、血と殺りくを好む戦いの女神と描かれる。男性側観念から見た女性の暗い面を神格化したと捉える研究者もいる。

巨大な海の怪物クラーケンの話は、12世紀のノルウェーが発祥といわれる。腕を船体に巻き付けて船を攻撃し、乗組員は溺れるか、食べられたという。目撃情報は、実際にはダイオウイカ（Architeuthis）だった可能性があると考えられている。属名のArchiteuthisは、古代ギリシア語のteuthisが語源。

リンゴの品種グラニースミス (Granny Smith) は、1868年にオーストラリアで偶発実生で開発された。名前は開発者のマリア・アン・スミス（Maria Ann Smith）に由来する。1935年頃に英国、1972年に米国で栽培が始まり、アップルパイによく利用される。ビートルズのアップル・レコードのシンボルマークに採用されたことで世界中で知られる。

スティーブ・ジョブス（Steve Jobs：1955-2011）が1977年1月に創立した「アップル（APPLE）」社名の由来は諸説ある。ジョブス氏が少年時代、りんご畑に囲まれて育ちリンゴが大好物だった。電話帳の前の方に載せるためにAで始まる代表的な単語を選んだ。開発した製品が人々に知恵を授ける点と、アダムとイブが食べた知恵の実（リンゴ）が関連付けられたなどといわれる。アップルロゴの一口かじられたリンゴは、「噛む（bite）」と単位の「バイト（byte）」をかけたともいわれる。リンゴの品種マッキントッシュ（Macintosh）は、料理と生食の両方に適したリンゴと見なされていることから、コンピュータの製品名に採用されたとされる。

星座名のヘルクレス座の由来でもあるヘラクレスは、ギリシア神話に登場する半神半人の英雄の中でも最大の存在。アニメーション作品の「マイティ・ハーキュリー（The Mighty Hercules）」は、怪力で知られる古代ギリシアの英雄ヘラクレス（英語読みハーキュリーズ）がモチーフで、カナダで制作された。日本では1963年から1966年にかけて、フジテレビジョン系列で放映された。

日本の漫画では、聖闘士星矢（セイントセイヤ：車田正美）、オリンポスのポロン（吾妻ひでお）、ピグマリオ（和田慎二）など、ギリシア神話をモチーフにした作品は多い。ポロンは架空の主人公だが、アポロン（Apollo）とラリッサ（Larissa）の実子であるアスクレピオス（Asclepius）がモデルとされ、一人前の女神になるよう日々の精進を惜しまない努力家という設定。アスクレピオスは、医神として現在も医学の象徴的存在。画像はイタリアの画家、セバスティアーノ・リッチが描いた夢の中で患者を治療する医神アスクレピオス。

カナダのバンクーバーは、北米最大のアニメーション産業中心地のひとつ。多くのスタジオが密集する地区で、ジョージ・ルーカスが設立したILM（Industrial Light & Magic）をはじめ、ハリーポッターやマトリックスの制作を手掛けるソニー・ピクチャーズ・イメージワークス（Sony Picture Imageworks）、タイタニック、美女と野獣、スパイダーマンを手掛けたデジタルドメイン（Digital Domain）に加え、2021年には、ディズニーもバンクーバーにアニメーション・スタジオを設立した。

写実主義の日本画家、高橋由一（1828-1894）が描いた「日本武尊（ヤマトタケル）」。日本武尊（72-113年頃）は、大和王朝の王子で「古事記（西暦712年）」と「日本書紀（西暦720年）」の物語に登場する。東京芸術大学美術館所蔵

ルネサンス期のイタリア人画家「ティツィアーノ・ヴェチェッリオ（Tiziano Vecellio）」が1556年から1559年にかけて描いたギリシア神話「ディアナとアクタイオン（Diana and Actaeon）」は、最高傑作といわれる。狩人のアクタイオンは、森の中で偶然立ち寄った泉が、狩猟・貞潔を司る女神アルテミス（ディアナ）とアルテミスに仕えるニンフたちが水浴を楽しんでいる場所だったため、裸を見られたことに激怒した女神アルテミスは、アクタイオンを鹿に変身させ、アクタイオンが連れていた猟犬をけしかけ、アクタイオンは凄惨な最後を迎えるというギリシア神話。森で水浴びするときは要注意。

明治期の日本絵画のロマン主義的傾向を代表する画家だった青木繁（1882-1911）は、日本の神話や伝説をラファエル前派（Pre-Raphaelite Brotherhood）の技法で追求した画風で称賛を集めた日本の洋画家。1911年3月に結核で28歳で亡くなった。ラファエル派は、19世紀の中頃、ヴィクトリア朝のイギリスで活動した美術家・批評家グループで、印象派とならぶ芸術運動だった象徴主義美術の先駆と考えられている。画像は1906年に描かれた「葦船に乗ったモーゼ」。クレージーキャッツの石橋エータローは、青木繁の孫にあたる。

ルネサンス期のドイツの画家「ルーカス・クラナッハ（Lucas Cranach the Elder）」が、1508年に描いた「パリスの審判」。同名の息子も画家のため、ElderとYoungerで区別される。同じ時代の宗教改革者マルティン・ルターの友人で、肖像画を多く残した。

オランダの画家「ヨアヒム・ウテワール（Joachim Wtewael）」が1615年に描いた「パリスの審判」。ヨアヒム・ウテワールは、ステンドグラス工房で働くことで芸術家としてのキャリアをスタートさせた。英国立美術館所蔵

スペインの画家「エンリケ・シモネ・ロンバルド（Enrique Simonet Lombardo）」が1904年に描いた「パリスの審判」。聖職者だったが、画業に専念した。マラガ美術館所蔵

ポスト印象派に分類されるポール・セザンヌが1864年に描いた「パリスの審判」。ポスト印象派は、形や色彩における考え方を発展させ、多様な現代美術へとつながる礎を築いたモダンアートの先駆け。

フランスのキュビスム系統に分類される画家「アンドレ・ロート（Andre Lhote）」が、1912年に描いた「パリスの審判」。キュビスム作品にしては、極めて作風は写実的。

「ルネサンス美術の先駆け」と言われるイタリアの「サンドロ・ボッティチェリ（Sandro Botticelli）」が1485年から1488年にかけて描いた「パリスの審判」。ルネサンスでは、古代ギリシアやローマの人間中心の美術、文化を理想としていた。

フランドルの画家「ピーテル・パウル・ルーベンス（Peter Paul Rubens：1577-1640）」が描いた「パリスの審判」は、数点が確認されている。画像は円熟期の1632年（55歳頃）に描かれた作品。

「ピーテル・パウル・ルーベンス（Peter Paul Rubens）」が1597年から1599年頃（20歳から22歳頃）に描いた「パリスの審判」最初の作品。

フランドルの画家「ピーテル・パウル・ルーベンス（Peter Paul Rubens）」が晩年の1639年（62歳）に描いた「パリスの審判」。

フランスの印象派の画家オーギュスト・ルノワール（Auguste Renoir）が1913年に描いた「パリスの審判」のスケッチ。

バブル経済が崩壊するまで、日本では「地価は絶対に値下がりしない」と信じられ、神話化。「米国株神話」や海外から「Japan as No.1」と見られていた「ソニー神話」があった。「治安の悪化で安全神話が崩壊」と比喩されるように、神話はときに「誤った根拠」を指すこともある。

宇宙物理学では、指数関数的膨張を「インフレーション」と呼び、通常の膨張と区別する。宇宙が誕生したとされる137億年前のビッグバン（big bang）以前に、「宇宙は神の一撃から始まった」という説に対し、アインシュタインが「神はサイコロは振らない」と反論したことは、「量子論」と「相対性理論」の比較でよく引き合いに出される。

金本位制（gold standard）は、国の貨幣価値（交換価値）を金（gold）に裏付けられた形で金額を表す。商品の価格も金（gold）の価値を標準として、19世期後半の大不況期に採用が進み、20世紀には国際決済銀行とブレトン・ウッズ体制の礎となった。1971年以降、先進国のほとんどは、固定相場制から現在の管理通貨制度に移行した。画像はスイスのバーゼルにある国際決済銀行（BIS：Bank for International Settlements）本部。

金融工学では、株取引などでの価格変動の激しさを表すパラメータを、ボラティリティ（volatility）と呼び、工学的には株価の幾何ブラウン運動モデルを指す。株価の値動きを過去の株価データから推定する。最近の株取引は、AIシステム同士の売買が増え、社会の環境変化に応じて、上昇・下降の傾向が極端に振れる傾向が増えているという。

景気が後退していく中で、インフレーション（物価上昇）が同時進行する現象をスタグフレーション（Stagflation）と呼ぶ。景気停滞を意味する「スタグネーション（Stagnation）」と「インフレーション（Inflation）」の合成語。通常の景気の停滞は、需要が落ち込むことからデフレ（物価下落）傾向となるが、原油価格や原材料の価格上昇などによって、不景気の中でも物価が上昇するスタグフレーションが起きる。

マルウェア（悪意のあるプログラム）の「トロイの木馬」は、一見無害に思えるアプリケーションを装いコンピュータに侵入し、中からデータの削除など、大きな問題を引き起こすプログラムの総称。ギリシアが平和の捧げ物としてトロイアに巨大な木製の馬を送り、木馬内に潜んでいた兵士が、城内から城門を開けてギリシア兵士を誘導した物語に由来する。

キュニコス派（Cynicism）は、ソクラテスの弟子アンティステネス（Antisthenes: 紀元前445年頃 - 紀元前365年頃）を開祖とするヘレニズム期のギリシア哲学の一学派。犬儒派（けんじゅは）とも呼ばれる。

人気を博した英国のテレビ番組「空飛ぶモンティ・パイソン（Monty Python's Flying Circus）」の一作品「哲学者サッカー」は、1972年のミュンヘンオリンピックで、ギリシアとドイツを代表する哲学者のアルキメデス、ソクラテス、ヘーゲル、ニーチェ、マルクス、カントたちの間でサッカーの試合が行なわれた、という設定で展開される。主審は孔子で、砂時計で時間を計る。ドイツ・チームの監督はマルティン・ルターだった。