SPECIAL FEATURE

“桜”という日本の選択

香り高く実を結ぶ梅に比べ、桜はほとんど香りもなく、実用性もない花だ。それでも日本では、桜が特別な存在として選び取られてきた。一斉に咲き、満開の直後に散る。その短さが、人の生や感情の移ろいと重ね合わされてきたからである。
日本各地の名所を彩る桜の多くを占めるソメイヨシノは、近代に人工的に広まった品種で、都市の景観形成や季節感を支える存在として計画的に植えられてきた。寿命はおよそ70〜80年とされ、現在は老木化による幹の空洞化や腐朽が進み、倒木の危険性から伐採や植え替えが各地で進められている。私たちが「変わらない風景」だと思ってきた桜は、実は更新を前提に、人の手によって維持されてきた存在でもある。

Category : 文化

Date : 2026.01.21

空から見た桜名所

私たちが「日本の春の風景」として思い浮かべる桜の名所。その多くを彩っているのは、実は一種類の桜、「ソメイヨシノ」である。江戸末期に生まれ、明治以降に全国へ広まったこの品種は、接ぎ木で増やされるため、ほぼ同じ遺伝子を持つ「クローン」だ。だからこそ一斉に咲き、一斉に散る。その特性は、河川敷や城址、公園といった公共空間の植栽に適しており、京都の都市景観形成に代表されるように、近代の都市整備や観光政策と結びついて「桜の名所」を生み出していった。
空撮写真に写る桜の帯や、記録写真に残る花見の風景は、自然の美しさであると同時に、意図的につくられた景観でもある。南から北へと報じられる桜前線もまた、同じ品種が全国に植えられたからこそ成立した、日本独自の季節の物語なのだ。

桜と女性

19世紀の木版画、とりわけ浮世絵の美人画では、女性の姿に桜を添える構図が、季節感や情感を伝える定型表現として繰り返し用いられた。桜模様の着物をまとった女性や、花見に集う遊女や町娘たちの姿は、江戸後期の都市出版文化の中で広く親しまれた視覚イメージである。こうした表現は、桜が象徴する「盛りと散り」という時間の流れと結びつき、満開の美が必ず終わりを迎えるという無常観を映し出していた。
やがて桜は、日本文化を象徴する視覚言語として再編成され、海外へと紹介されていく。そこでは、日本人の自然観や精神性を内包する象徴として受け取られ、異なる文脈の中で新たな意味を帯びていった。

海を渡り、別の桜へ

私たちが「桜」と呼ぶ花の多くは、植物学的にはバラ科サクラ属(Prunus)に属している。ソメイヨシノやエドヒガン、日本産サクラ(Prunus serrulata)はその代表例だが、同じサクラ属にはウメやモモ、スモモも含まれる。花の形や咲き方が近いため、これらの植物は時代や地域によって「桜のような花」として鑑賞されてきた。本章に登場するベニバナスモモやウメ‘紅千鳥’も、そうしたサクラ属の一員である。さらに、日本原産の桜が海外へと渡る過程で、新たな品種も生み出された。エドヒガン系を基に西洋園芸の中で作出されたサクラ‘アーコレード’は、その代表的な例である。20世紀初頭から中頃にかけてヨーロッパで育成され、花付きが安定し、枝ものとして扱いやすく、花が比較的散りにくい特性から、フラワーアレンジメントにも用いられるようになった。

お問い合わせ・ご相談 無料

こんな写真を探している
こんな企画があって写真を多数使用したいなど、
ご相談は無料で承っております。

TEL 03-3264-3761 mail お問い合わせフォーム
×
×CLOSE