facade

SPECIAL FEATURE

ファサード風格品格

建築の「ファサード(外観や正面)」は、建物の「顔」として、用途や機能、デザインが一目で分かるように表現される部分。都市景観に大きな影響を与え、ランドマークやアイストップとなることで、街の印象を左右する。また、外観のデザインには時代や文化が反映され、建物の歴史的な背景や設計思想が見て取れる。現在でも、ファサードは建築計画や意匠設計の上で極めて重要視され、環境に配慮した持続可能な設計が求められ、法的な制約や周辺環境、建主の意向、建物の属性などの多様な条件から決定される。
ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんの短編小説「京都、ファサード」では、建築用語の「外観や正面」にとどまらず、個人が外部に見せる「表向きの顔」や「仮面」といった比喩的な意味でも用いられ、登場人物たちが自身の内面と外部に見せる姿との間にあるギャップや、他者との関係性における表裏の問題が描かれ、ファサードを通じて、人間の内面と外面の複雑な関係性や、自己表現の多層性を探求する。また、建築物の「外見的な形」を整えることに由来する日本語の「建前(たてまえ)」は、「本音」の対義語で、本心を隠して遠回しに気持ちを伝えることをさし、日本社会では長く重要視された。

Category : 歴史

Date : 2024.11.13

世界文化遺産の建築ファサード

歴史の中で建築ファサードは、大きく変遷した。古代エジプトの巨大な柱や彫像は王や神の威厳を表現。宗教的な象徴としての役割を果たし、古代ギリシャでは、神殿などの建築物は対称性や比例美が重視され、パンテオン神殿(Pantheon)に代表される古代ローマでは、アーチやドームが採用され、装飾的なエンタブラチュア(entablature)とペディメント(pediment)で、柱と屋根を一体化する構造を発明。古典建築の基盤を築き上げ、のちの建築にも美的価値と技術が継承された。
ノートルダム大聖堂などが象徴の中世ゴシックのファサードでは、ステンドグラスの窓が多用され、ゴシック建築の重要な構造要素の尖塔アーチ(Pointed Arch)やバットレス(Buttress)は、建物の重量を効果的に分散させて、より高い建築物でも安定性を確保。バットレス(控え壁)は、建物の外壁に設置される突起状の構造で、壁にかかる横方向の圧力を地面へと逃がすための役割を果たした。
ルネサンス期のフィレンツェのドゥオーモ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)のファサードは、建築や芸術の変革を示す重要な文化遺産。ベルサイユ宮殿などが典型のバロック・ロココのファサードは、ダイナミックで劇的な曲線、豊かな装飾が特徴で、動きと力強さを表現。19世紀のネオクラシシズムでは古代建築への回帰。産業革命後には、鉄やガラスといった新素材が導入され、透明感と軽量化がもたらされ、21世紀のファサードでは、緑化、ソーラーパネル、エネルギー効率の高い素材が採用され、環境に配慮した持続可能な設計が求められる。
ファサードは、建築物の「顔」として時代の価値観や技術の進展を反映し、特に世界文化遺産に登録されるものは、文化的・歴史的価値の象徴に加え、観光資源としても大きな役割を果たす。

ファサードの連続としての街並み

個々に立っている建物のファサードが連続して街の景観を形成し、統一された美しい環境を作り上げる。この視点は都市計画や景観設計において重要で、都市の魅力やアイデンティティに大きな影響を与える。欧州の歴史的な都市や日本の伝統的な街並みが典型で、歴史的建築様式で統一されるパリのマレ地区(Le Marais)、町家のファサードが連続し、伝統的な日本の街並みが保存される京都の祇園や東京の浅草、鉄骨造のファサードが並び、街の歴史的な工業デザイン景観を作りだすニューヨークのソーホーなどは、ファサードを調和させ、美しさに加え、都市の記憶やストーリーが生まれ、都市に独自の個性と価値をもたらす。
多くの都市では、ファサードの連続性を維持するために景観条例や建築規制が定められ、高さや素材、色彩、デザインの統一感に関する基準が設けられ、無秩序な開発や違和感のある建築が街並みを損ねるのを防ぐ。一方で現代の街並みでは、歴史的なファサードと新しい建築の融合が求められることが多く、新しい建物が建てられる際に、既存のファサードと調和するようなデザインを取り入れたり、古い建物のファサードを保存しつつ、内部をリノベーションするなど、街の歴史的価値を守りつつ、現代の利便性を兼ね備えた建築が進められる。
従来、建築は純粋に実用性が重視されたため、著作権の保護対象として認識されていなかったが、19世紀後半から20世紀にかけて、建築が美術やデザインとして評価され、建築物のパブリシティ権が認識されるようになった。米国エンパイア・ステート・ビルやフランスのエッフェル塔の夜景などのように、象徴的な建物について、パブリシティ権が主張されるケースが増えている。
一方で、公共の空間と権利の制限もあり、米国や欧州の多くの国では、公共の場所から撮影された建物には「パノラマの自由(Freedom of Panorama)」と呼ばれる例外規定が設けられ、商業的な利用がある程度認められる。ただし、デンマークでは、建築以外の作品における完全な風景の自由を認めておらず、たとえば、エドヴァルド・エリクセン(1959年没)の彫刻「人魚姫の像」は、2030年まで著作権の保護下にある

グロテスクとガーゴイル

中世ヨーロッパの建築装飾「ガーゴイル(Gargoyle)」は、特にゴシック建築に多く見られ、恐ろしい姿には、悪霊を追い払う魔除けの意味が込められるのと同時に、排水路としての実用的な役割がある。フランス語の「gargouille(喉、のど音)」に由来し、ガーゴイルは雨水が流れる音を強調するような形状で、雨水が建物に染み込むのを防ぎ、ガーゴイルの口や体を通して雨水が地面に流れるようになっている。
中世やルネサンス期に怪物や奇妙な形をした建築装飾として人気があった「グロテスク(Grotesque)」は、架空の怪物、人間と動物のハイブリッド、動植物を模した抽象的なパターンなどのデザインが多く、例えばノートルダム大聖堂のグロテスク像は、建物に独特の雰囲気を与え、建物の美観や神秘性を高めるが、排水機能は持たない。
日本の奈良時代から見られる建築装飾の「鬼瓦(Onigawara)」は、屋根の端部分に取り付けられる鬼や魔物の顔を模した瓦で、建物を守る魔除けの役割がある。鬼瓦には鬼や獅子、霊獣がデザインされ、表情や造形は建物を守るための威嚇的なものが多く、おもに仏教寺院や城などの建築物で用いられる。

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