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時を編む
‐時計が語る世界の歴史‐

いまや時計は私たちの生活に欠かせない存在。会社の勤務時間、学校の授業スケジュール、鉄道の運行計画など、これらは時計なしでは実現不可能。水時計や砂時計からはじまり、現代のスマートウォッチまで、文明が進むにつれて、人々は時計に縛られ、時間に追われる歴史が形作られた。同時に正確な時間測定は、宗教儀式のスケジュール管理や、季節や天候が農業に与える影響を考慮して収穫を進めるためにも役立ってきた。
「タイム・イズ・マネー」の由来は、米国のベンジャミン・フランクリン説や英国の数学者ジョン・ウォリス説など諸説あるが、現在では効率的な時間の活用が経済的成功につながることを強調する表現となっている。2021年、日本におけるeコマースの年間売上高は約3兆円で、1秒のサーバ停止が10万円の損失を生む計算だ。

Category : 歴史

Date : 2023.11.15

天文学と計測器の進化と時間の概念

古代エジプトやバビロニアでは、日時計や星時計が存在し、これらは人々の生活に規律をもたらした。古代エジプトでは太陽暦に基づく暦が使用され、日時計はノーモン(Gnomon)の影の長さと方向を用いて時刻を判断し、星時計は夜空の星の位置を計測して時刻を把握した。古代ギリシャでは、アルキメデスが水時計を発明し、天文学者エラトステネスが日時計(アーミラ)を考案した。
中世のアラビアでは、時計製作において大きな進展があった。アストロラーベやクアドランテ(四分儀)などの道具は、星や太陽の動き、建物の高さを測定するのに利用され、アストロラーベは後の大航海時代においてヨーロッパ諸国の航海で欠かせない「マリンクロノメーター」の開発に寄与した。18世紀以降、機械式時計やクォーツ時計などが登場し、時間の精度は著しく向上した。
時間の単位である「60秒で1分、60分で1時間」は、古代バビロニア人が考案したとされ、60という数は多くの約数を持ち、計算が容易だったことが要因とされる。この60進法は、その後、古代ギリシャや古代ローマに受け継がれ、時分秒の計測単位として普及し、中世以降、西洋の文化圏で時間の測り方として確立された。

水時計から振り子時計への軌跡

1092年、中国北宋時代に「水運儀象台(すいうんぎしょうだい)」と呼ばれる、高さ12メートルの大型水時計(世界初の天文時計)が、北宋の首都だった開封に建造された。当時は、時間の管理や正確な暦づくりのための天文観測が、皇帝や政府の重要な任務で、時間の管理と天体観測による予言「占星」を行うことがとても重要だった。水運儀象台は、宋の滅亡とともに破壊され現存しないが、当時の資料「新儀頌法要」の解読をきっかけに、長野県下諏訪町の「時の科学館」に復元された。
1300年ごろ、おもりの自重で歯車を回す「重力時計」が誕生。その後、動力源にゼンマイ(mainspring)が採用され小型化。1583年、イタリアのガリレオ・ガリレイが振り子の周期が同じである「等時性原理」を発見し、オランダのクリスチャン・ホイヘンスが振り子を応用した振り子時計を開発。時間の精度が飛躍的に向上した。
日本語の「時計」は、英語圏では置いた状態で使う時計をクロック(clock)と呼び、携帯用の時計をウォッチ(watch)と呼ぶ。

体内時計と時計遺伝子のメカニズム

明け方が近づくとニワトリは時を告げ、渡り鳥は、体内時計と太陽の位置とを組み合わせて方位を知る。比喩的表現の「腹時計」は、食欲や眠気などの生理的なリズムや感覚に依存して時間を感じることを指すが、人類が時計を発明する、はるか以前から、動物は体内時計で計時を行っていた。
20世紀初頭、生物学者が植物や動物の生理学的なリズムを研究し、バイオリズムの概念が登場。20世紀半ばには、生理学者のユージン・アスタンが「サーカディアンリズム(生物の24時間リズム)」を発表。1980年代以降、分子生物学の進展により、体内時計の分子メカニズムが解明された。具体的には、ヒトや動物の細胞内で時計遺伝子と呼ばれる特定の遺伝子が発見され、これがタンパク質の合成・分解のサイクルを通じて体内時計を制御していることが解明。2017年、生理学・医学分野で時計遺伝子の発見に貢献した3人の研究者にノーベル賞が授与された。この研究により、生物が時刻を感知し、それに応じて調整する仕組みが明らかになった。

10000分の1秒を正確に計測する

世界記録保持者のウサイン・ボルトは、100メートルをわずか9秒58で駆け抜けた。陸上競技の公式タイムは、赤外線と1/10,000秒まで計測可能なフォトフィニッシュカメラを組み合わせて、ルールに基づいて1/100秒単位でタイムや着順を確定する。この高精度な計測手法は、競馬やスピードスケートなどの写真判定にも応用される。
古代ローマで人気だった戦車競走は、複数の馬による二輪車の引っ張り競争で、古代ギリシャのオリンピア競技会の主要種目で、モータースポーツの先駆けともされる。現代のF1GPでは、レーシングカーに「トランスポンダー」と呼ばれる発信機を搭載し、コース内の複数の場所に受信機が埋め込まれていて、1000分の1秒を正確に計測する。
陸上で100分呼吸可能なダイビングのタンク(潜水ボンベ)は、水深10Mでは2分の1の50分に、水深30Mでは4分の1の25分になる。ダイバーは、潜水ボンベの残り酸素量がダイビング活動時間を左右する。高い防水性能と視認性が高い文字盤を備え、高い水圧下でも正確に時間を計測できる腕時計(ダイバーウォッチ)は、ダイバーの生死にかかわる必需品だ。
1953年にロレックスが発売した「ロレックス サブマリーナ」や1960年代に登場したタグ・ホイヤー(当時はハイ・レジャー社)の「オートビア」は、現代の標準的なダイバーウォッチに大きな影響を与えた。1970年代には、水中での経過時間や深度をデジタル表示するデジタルダイバーウォッチが登場し、1980年代以降は、ISO(国際標準化機構)がダイバーウォッチに対する厳格な規格を策定し、その適合が求められるようになった。

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