不思議の天気

テオプラストス（Theophrastus、紀元前371年-紀元前287年）は、古代ギリシャの哲学者、博物学者、植物学者。先駆的な植物研究の功績で有名だが、「北東風のときは天気が悪い」とか、天気のことわざを集めて本にまとめたことでも知られる。

アリストテレス（Aristoteles、前384年-前322年）は、古代ギリシャの哲学者。プラトンの弟子で、ソクラテスやプラトンとともに、西洋哲学の第一人者。倫理学、自然科学を学問として分類・体系化。世界初の「気象学（Meteorologica）」を執筆した。

日本では、8世紀はじめの「風土記」に各地の気象の記載がある。船乗りにとって天気の変化は生死にかかわることがあり、1456年、「村上水軍」の頭領、村上雅房（むらかみ まさふさ）が「船行要術」を著し、天気の変化に関する経験則をまとめた。また1767年、中西敬房（なかにし たかふさ）が「民用晴雨便覧」を刊行。天気の変化と地形との関連にふれている。

気象を正確に知るには、地上にとどまらず、上空の状況を観測する必要がある。1783年、英国のジョン・ジェフリーズ（John Jeffries、1744-1819）は、気球で上空の気象を観測した「高層観測」の草分け。1785年には、ジャンピエール・ブランシャールとともに気球でドーバー海峡を横断した。

1658年、ドイツの科学者で真空（vacuum）の研究で知られるオットー・フォン・ゲーリケ（Otto von Guericke：1602-1686）が気圧の変化が天気に関係することを見い出した。

ハインリヒ・ウィルヘルム・ブランデス（Heinrich Wilhelm Brandes：1777-1834）は、ドイツの物理学者、気象学者、天文学者。1820年、航海の発達に応じて、地図上に低気圧や高気圧の分布を表した「天気図（weather map）」をつくり、天気予報の道具として使ったことが、天気予報（weather forecast）の出発点とされる。

ウィリアム・ダンピア（William Dampier：1651-1715）は、英国の探検家、海賊（バッカニア：buccaneer）、水路学者（hydrographer）。1687年、自ら世界周航を3回成し遂げ、台風が渦であることを発見。

ガスパール・ギュスターヴ・コリオリ（Gaspard-Gustave Coriolis：1792-1843）は、フランスの物理学者、数学者、天文学者。「コリオリの力（Coriolis force）」の提唱者。1828年ごろ、台風の渦が地球の自転と関係があることを突き止めた。「コリオリの力」は、赤道上では「0（ゼロ）」で、北極や南極で最大になり、北半球では風の進む方向に対して右のほうに、南半球では左の方向に垂直に働く慣性力。

ハリケーンがどのように形成されるかを示すコンピューター・グラフィック。暖かく湿った空気が海面から上昇（赤矢印）するにつれて、冷えた水蒸気は雲を形成。この繰り返しが、中心点の周りを循環する風（赤い中央の矢印）を生み出す。そして上部にある冷却された乾燥した空気は、中央から下向きに吸い込まれ（青い中央の矢印）、風の強さを強めるループを形成。台風(typhoon)と同じ気象現象に分類されるハリケーン(hurricane)とサイクロン(cyclone)は、大意をまとめると、大西洋で発生した台風をハリケーン、インド洋で発生した台風をサイクロンと呼ぶ。

ダニエル・ガブリエル・ファーレンハイト（Daniel Gabriel Fahrenheit：1686-1736）は、プロイセン（現在のポーランド北部からリトアニアにかけて広がる地域）で生まれ、主にオランダで活動したドイツ人技術者、物理学者。1724年、水の凝固点を32度、沸騰点を212度とし、その間を180等分したものを1度とした「華氏（°F）」を提唱した。

サー・フランシス・ビューフォート（Francis Beaufort：1774-1857）は、アイルランド出身の英国海軍少将、水路学者（hydrographer）。19世紀初頭、風の強さを13のグレードに分類した尺度「ビューフォート風力階級（Beaufort scale）」を作成。目測からおよその風速に応じた「波の高さ」を予測した。

日本で採用される温度の単位、摂氏もしくはセルシウス度は、スウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウス（Anders Celsius：1701-1744）に由来する。水の氷点と沸点との間を100分割した目盛り付けしたことから、百分度（centigrade）とも呼ばれる。単位は「°C」で表記される。米国では華氏「°F」が採用される。体温が摂氏37.8°Cは、華氏では100°Fとなる。

日本初の温度計は、平賀源内（1728-1779）が1765年に作った「日本創製寒熱昇降器」といわれる。極寒、寒、冷、平、暖、暑、極暑の文字列のほか、数字列も記されていた。単位は華氏を採用していた。

ギルバート・トーマス・ウォーカー（Gilbert Thomas Walker：1868-1958）は、英国の物理学者、気象学者、統計学者。空気力学や電磁気学の時系列データ分析を通じ、さまざまな分野でデータの統計的アプローチに取り組んだ「データ・サイエンティスト」の草分け。インド気象局勤務時代には、世界各地の気圧や降水量の過去の統計データから、インドの夏の雨量やモンスーンを春ごろに予想した。

太平洋西岸（インドネシア付近）で上昇気流が発生し、太平洋東岸（ペルー沖）で下降気流を生じさせる太平洋赤道域の大気の東西循環を発見し、上図が正常な大気循環（atmospheric circulation）で「ウォーカー循環（Walker circulation）」と呼ばれる。下図は「エルニーニョ現象（El Nino phenomenon）」で、熱帯太平洋全体で約5年ごとに発生する大気循環の異常。ペルー沖の海面水温が上がる季節現象を「エルニーニョ」と呼び区別する

気象観測を行う人工衛星GOES（Geostationary Operational Environmental Satellite）は、1975年から米国気象局（NWS）が利用している静止気象衛星シリーズ名。開発と打上げは米国航空宇宙局（NASA）、運用は米国海洋大気庁（NOAA）が担当する。日本では気象庁が静止気象衛星「ひまわり」を用いて、赤道上空約3万5,800kmから観測を行っている。現在は「ひまわり8号」が稼働中で、「ひまわり9号」が待機中。

オーストラリアのディーキン大学のポドルスキー博士（Dr. Podolski）の研究「天気が企業行動にどのように影響しているか」によると、天気がよい日が多いと、社員はより楽観的になり、クリエイティブでリスクをいとわない行動を取り、結果的にイノベーションを成功に導ける可能性が高くなるという。また、エグゼクティブの会計的判断にも影響を及ぼし、会計数字を実際よりもポジティブに読み取ってしまう傾向にあるという。

気象庁によると、毎日17時に翌日の天気予報が発表になり、「明日の天気」として夜のニュースなどで放送されている。東京地方の「翌日雨が降るかどうか」の予報精度（的中率）は、1950年は72%だったが、2006年は86%だった。いずれの数値も過去5年平均値。画像はオルリック・エミール（1870-1932）の1901年の作品「東京の雨の日」。

気圧の大きさは、空気が押す力が水銀柱の高さに比例するので、1945年までは「mmHg（ミリ水銀柱）単位を使っていた。1945年以降は国際単位系のCGPM（Conference generale des poids et mesures）単位表記にそろえた「mbar(ミリバール)」単位を採用していたが、1992年12月からは国際単位系のCGPM単位表記にそろえた「hPa(ヘクトパスカル)」に変更されている。米国では、いまでも「mbar」単位が使われている。

1846年にジョン・トーマス・ロムニー・ロビンソン（John Thomas Romney Robinson：1792-1882）が発明した半球型カップ風速計（Hemispherical-cup anemometer）。機械式の回転数を積算し、風程（測定時間内における空気の移動距離）を表示する。

現在でも航空機の速度計などに使用されるピトー管（pitot tube）は、1732年にアンリ・ピトーが発明し、ヘンリー・ダルシーにより改良された。流体の流れの速さを測定する計測器で、まだベルヌーイの定理が発表される以前だった。ジョン・エアレイによって理論的な原理が説明されたのは1913年。写真はボーイング747に装着されたピトー管。

英国の気象学者ウィリアム・ヘンリー・ダインズ（William Henry Dines：1855-1927）によって、1892年に発明されたチューブ風速計。右の可動部の開いた口と左の固定部との圧力差を測定し、風速を導き出した。ピトー管も同じ原理。

スウェーデンの気象学者トール・ハロルド・パーシヴァル・ベルシェロン（Tor Harold Percival Bergeron：1891-1977）は、大気から雲が生成されて、雲のなかで降水粒子の生成理論を基礎とする降水過程（precipitation process）のメカニズムを解明。現在でも航空機からドライアイスをまいて雲の温度を下げ氷の粒を作ったり、氷の粒のかわりにヨウ化銀の粒を雲のなかに入れ、雪の結晶を作り人工雨（artificial rain）を降らすことをクラウドシーディング（cloud seeding）と呼ぶ。

チャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソン（Charles Thomson Rees Wilson, 1869-1959）は、スコットランドの気象学者・物理学者。雲に興味を持ち、人工的に雲を発生させる実験を重ねて、水蒸気の凝結核として大気中に自然発生するイオンの存在を確かめた。その実験装置はイオンを可視化する装置として改良され「霧箱（Cloud Chamber）」と名付けられた。1911年にＸ線やα線などの放射線の飛跡を可視化して写真撮影することに成功。その後多くの研究者によって原子物理学の研究に役立てられ、1927年にノーベル物理学賞を受賞した。

1597年、イタリアのガリレオ・ガリレイ（Galileo Galilei：1564-1642）が温度計（thermometer）を発明。客観的な温度測定を可能にしたことが、近代気象学のはじまりとされる。

古代から、水不足に悩まされた場合に、祈祷師が雨乞いを通じて人工的に雨を降らせたといわれる。科学的根拠は不鮮明ながら、大規模な焚き火による煙や塵がシーディング物質のような効果をもたらしたのではないかと推測する説もある。写真は、1800年代にアフリカのコンゴで雨乞いをする祈祷師。

翌日の晴天を願う「てるてる坊主」の由来は諸説あるが、中国の伝説上の女性で晴天を願う紙人形「掃晴娘（さおちんにゃん）」にまつわる説が有力。頭が下を向くように仕立てたものは「逆さ坊主」と呼ばれ、雨乞いの意味が込められる。

下駄占いは、履いている下駄を蹴り上げ、地面に落ちた下駄が表か裏かで、明日の天気を占う。下駄が表向きなら晴れ、裏向きなら雨といわれる。下駄が横向きなら曇りで、地方によっては雪ともいう。

日本では古くから地震（earthquake）を起こす象徴的な存在としてナマズ（Catfish）がよく知られ、現在でも調査研究が続いている。1855年11月11日22時、江戸後期の安政江戸地震は、揺れとその後の火災により大きな被害を受け、津波も引き起こし、約7,000人の死者が出た。地震発生後数日のうちに鯰絵と呼ばれる新しいタイプのカラー木版画が登場し、落ち着きを失った街の住民の間で人気を博した。

動物で雨を予知することわざ（saying）は多い。中でも「猫が顔を洗うと雨」は広く知られている。雲が近づき、気象条件が変わると猫は顔を洗いたくなるのではないか、という説もあるが、実際の調査結果では、必ずしも当たるとは言えない。

動物で雨を予知することわざに、カエルがよく登場する。「カエルが鳴けば雨」は、実際にカエルが泣いてから30時間以内に雨となる割合を調査した結果では、北海道の帯広の降雨率64%、和歌山で70%、全国平均62%だった。「アマガエルが低いところにいれば雨」の降雨的中率は70%だったという調査結果もある。

低温の芝生（左）と高温の舗装路のサーモグラフィ画像。ヒートアイランド（urban heat island）は、都市部の気温がその周辺の郊外部に比べて高温を示す現象。気温が上がる理由のひとつは人間の生活。太陽から地面に当たる熱量は、１日につき4,000kcal/m2だが、大都市では人間の生活自体が500kcal/m2の熱量を発すると言われる。また、都市部は、降った雨を流してしまうので、表面が乾燥し、水の蒸発がないので湿度が減り、結果として気温が上がるという影響も大きい。

英国で伝承された童話「三匹の子豚（The three little pigs）」の教訓は、ものを作る時は、手早く仕上げるよりも、時間や手間をかけた方が、安全なものとなり、いざという時に役に立つというものだが、理科的教訓は、強固な構造物は風雨に耐えるということ。「三匹の子豚」は1933年にウォルト・ディズニーがアニメ化。日本では、この物語をモチーフにしたNHKの人形劇「ブーフーウー」が1960年から約6年間に渡り放送された。

風袋から風を吹き出し風雨をもたらす風神（Wind God Fujin）と、太鼓を叩いて雷鳴と稲妻をおこす雷神（Thunder God Raijin）の姿を描写する風神雷神図は、俵屋宗達筆の屏風画（国宝）が有名だが、多くの画家によって作られた模作や模写が多数ある。画像は尾形光琳（1658-1716）の屏風画（重要文化財）の風神雷神図の風神。

画像は尾形光琳の屏風画の雷神で、俵屋宗達筆の屏風画「風神雷神図」のレプリカ。雷は古くから農耕、降雨、落雷、嵐などの自然災害との関係が深く、ギリシャや中国など世界各地に雷の神格化、神話、伝説がある。1998年から5年間の日本の雷発生日数は、北海道地方で年間10日以下ともっとも少なく、関東、近畿、九州地方で10～30日、北陸地方は40～60日ともっとも多い。

漁師にとって、天気の変化は生死にかかわる。日本でもファッションとして流行した縄編み柄の「フィッシャーマンセーター（アランセーター）」は、6世紀ごろからアイルランド西岸のアラン諸島で女性たちによって編まれ、縄編みの柄の組み合わせは家紋のように異なる。漁に出る夫の無事と豊漁祈願が編み込められ、不幸にも漁での溺死者が岸に打ち上げられたときには、着ているセーターの柄で身元を判断したといわれる。

気象の影響を受ける病気は、総称して「気象病」と呼ばれる。日本で気象病外来・天気痛外来を立ち上げた佐藤純医師によると、天気が悪くなると痛みが悪化したり、寒暖差による不調を「天気痛」と名付けている。天気痛の症状には、頭痛だけでなく、めまい、耳鳴り、倦怠感、うつ等も含まれている。

天候や気温の変化に関連したデータを商品の販売に活かすのがウェザーマーチャンダイジング。昇温商品では、気温が19度になると半袖シャツやＴシャツが売れ始め、20度になるとビール、アイスクリーム、クーラーが売れ始め、29度まで上がるとシャーベットや氷菓が売れ始める。降温商品では、気温が18度まで下がると、おでん商材やフリースが売れ始め、17度になるとレザージャケットが売れ始めるとされる。

農作物は10度以上になると成長をはじめ、温度が高いほど生育が早い。また、日々の気温の積算が、ある値以上でないと農作物は収穫できない。この有効積算温度を「デグリーデー（Degree Day：度日）」と呼ぶ。コメは3,200度日、トウモロコシは2,300度日、麦は1,600度日が目安。つまりコメは気温の高い場所でないと収穫できない。基準温度との差を積算したデグリーデーは、冷暖房に使用される燃料や電力量にほぼ比例する。暖房の場合は14度、冷房の場合は24度を基準温度とし、前者を「暖房デグリーデー」、後者を「冷房デグリーデー」と呼ぶ。