茶でたどる
文化ナショナリズム

初期のお茶は主に薬として利用されていた。お茶は体を清め、健康に良いとされ、また仏教の修行者たちにも利用されていた。宋代（960年-1279年）になると、お茶は飲み物としても一般的になり、お茶の製法や飲み方も発展。写真は「神農本草経」。中国の古代医学文献の一つであり、中医学の基礎となる重要な著作で、茶とその効用が記されている

陸羽（733年 - 804年）。陸羽は唐代の文筆家で「茶経」は茶に関する古典的な著作として広く尊重されている。中国の歴史において、お茶は文学にも多く登場する。詩人や文人たちは茶を詠んだり、茶の味わいを賞賛したり中国文学においても特別な存在を持つことを示している

闘茶図（宋代）。闘茶とは、お茶の種類や産地を飲み比べてそれを当てる遊芸のこと。中国では宋代に流行しており日本には鎌倉後期まで伝わっていた

天目山。中国浙江省杭州市臨安区の北西に位置する山。仏教の聖地・お茶の産地で、「天目茶碗」の由来ともなった。天目山は自然保護区に指定されており、自然の美しさに恵まれた山岳地帯、森林地帯である

建窯窯跡（福建省建陽市水吉鎮后井村）。唐の時代に創設され、宋の時代に栄えた。代表的な天目茶碗は福建省水吉県建窯産のものであり、今は茶碗の破片が山積みになっている

徽宗「文会図」。宋代の皇帝徽宗が描いた「文会図」は茶宴の様子を描いている。文人たちが集い、お茶を愉しみながら詩詞をつくり、哲理を論じあっている

お茶は中国の文化や生活に深く根付いており、お茶を飲むことは芸術とも言える。茶道は、茶を淹れ、飲むことを通じて心を落ち着かせ、精神を統一する芸術的な行為として重要視されている

中国でのお茶の栽培の様子を描いた絵

イギリスと中国の間で茶の貿易が拡大。中国から輸出された茶は主に緑茶だったが、後には紅茶も取引されるようになる。イギリスは東インド会社を通じて中国との貿易を拡大

中国茶の生産地。1790‐1820 年頃の中国の広州。中国茶貿易。中国は茶生産国としての地位を強化し、お茶は国際的な商品として広く取引された

緊圧茶(きんあつちゃ)。茶葉を圧縮したり押し固めたりする製法に由来し独特の形状がなされる。茶葉の運搬や保存に適しているほか、熟成を促進する一因もある。団茶、片茶、圧縮茶、固形茶とも呼ばれる

茶の運搬。1908年の中国四川省。雲南省で取れたお茶をチベットへ人および馬で運んだ交易路は、茶馬古道といわれる

中国で一般的に見られる主要なお茶の種類は、緑茶、紅茶、ウーロン茶、黄茶、白茶、黒茶。それぞれの種類は異なる製法で作られ、風味や香りに異なる特性を持つ

中国のお茶文化において茶葉を最初の沸騰したお湯で一度捨てる理由はいくつかある。茶葉の洗浄・茶葉の膨張・茶器の温めなどがあげられる

日本にお茶が入ってきたのは奈良・平安時代と言われており、貴重で僧侶や貴族階級などの限られた人々だけが口にすることができたという。鎌倉時代に入り、日本臨済宗の開祖、栄西によって抹茶の飲み方である「喫茶の法」を広めるなど日本における茶の普及に大きく貢献した

戦国時代になると千利休が茶道を大成し、茶室や茶の湯の形式が確立された。利休は茶の湯において「侘び寂び」の美意識を取り入れ、茶室や茶道具の簡素で自然な美を追求。茶室の中ではすべての人が平等ということを示すために入り口を低く、 どんなに身分が高い人でも、刀を外し頭を下げ入室した

江戸時代になると、茶の湯は幅広い社会層に普及した。茶会や茶の湯の教養が武士や商人、農民まで広がり、茶の湯は一般の生活に深く根付くようになった。歌川広重「江戸高名会亭尽 湯島 松琴亭」。女性が茶室で男性にお茶を出し、お茶を飲み、本を読み、書き物をしている様子が描かれている

宇治（京都府）で生産される宇治抹茶。宇治は日本で最も歴史のある緑茶の産地であり、宇治茶でも有名。宇治茶は、色はやや黄味が強い黄金色で、味は最初に渋みを感じ、少しずつ甘さへと変化し、最後は清々しいスッキリとした美味しさに変わる

静岡県の牧之原台地とその周辺地域で生産される静岡茶。静岡茶は宇治茶に比べると蒸し時間が倍ほど長く、 鮮やかな緑色で、味は渋みが強く、香り高いのが特徴

春の新芽の茶摘みは風物詩。手摘みによって新芽や若葉を傷つけずに収穫でき、茶葉の品質が向上するが、近年では効率的に行うために機械収穫が行われることもある。機械収穫は大規模な茶畑や商業生産において利用され、手摘みよりも迅速でコスト効率が高い

喜多川歌麿「難波屋おきた」。彼が描いた「寛政三美人」は芸者の富本豊雛(とみもととよひな)、水茶屋の看板娘、難波屋おきたと高島屋おひさがモデルである。当時、水茶屋の看板娘たちは、会いに行けるアイドルのような存在

1910-1915年頃の日本の茶摘み。明治時代の日本人写真家「江南 信國」が撮影。T・エナミ (T. Enami) の通称で知られてもいる。彼は約100年程昔の日本の風景や風俗がよく分かるカラー写真を遺している

茶道においては主客の間において階級差を感じさせない「主客一如」の精神が重要視される。茶の湯は一期一会の瞬間を共有し心を打ち明ける場とされ、茶道においては「精進」という言葉が頻繁に用いられ慎ましく生き、心身を清めることを意味する。茶道を通じて、精神修養や清浄な心の持ち方が追求される

茶道で使用される茶碗。 クリーム色のひび割れ釉を施した岩倉山焼の茶器。 七宝と金箔の2羽の鶴が描かれている陶磁器。 質素である中にも繊細な美意識が表現されている

女学校での茶道のレッスンを受けている様子。東京で1910年頃とされている。日本を代表する伝統文化とも言われる茶道はお点前の技術、道具の扱い方、美しい所作、和室での立ち居振る舞いだけではなく、おもてなしの心についても学ぶことができる

静岡の茶園から見える富士山。 1880-1910頃の手彩色写真。明治時代から大正時代初期にかけての時期で日本の社会や文化が急速に変化し、伝統と革新が融合した時代である

緑茶にはカテキンやビタミンCなどの栄養素が豊富に含まれている。特にエピガロカテキンガレート（EGCG）は、抗酸化作用や抗炎症作用があるとされ、健康効果が期待

1990年から緑茶のペットボトルの販売が始まった。日本人の生活に定着し、時代の生活に合ったスタイルを取り入れながら緑茶は引き継がれている

抹茶は世界的なトレンドとなり、抹茶を使用した商品やメニューは日本のみならず国際的な市場で広がっている。抹茶ラテ、抹茶アイスクリーム、抹茶スイーツなどが人気を博しており、日本のお菓子メーカーからも日々新商品が産み出されている

オランダ東インド会社は茶の貿易に関与し、東アジアから茶を輸入してヨーロッパに広める役割を果たした。それは紅茶ではなく、はじめは中国茶や日本茶だった

ロンドンのコーヒーハウス。コーヒーハウスの名前の由来はコーヒーが主体だったからであるが紅茶やチョコレートなど高価な舶来品も提供。貴族や文化人の「社交の場」であり紅茶に砂糖を入れて商品として提供するようになったのは、このコーヒーハウスが始まりであろうといわれている

オリバー・クロムウェル（1599 - 1658）。1640年にティールームが開業されるなど、お茶は徐々に浸透。清教徒革命の後にオリバー・クロムウェルがイングランド共和国の実権を握った時、その頃に流行り始めていたお茶に課税することを思いつき実行

ヨーロッパでは茶を飲むための道具や茶器も流行し、独自の茶の飲み方や文化が形成。ティーポット、ティーカップ、ソーサー、ティーストレーナー、シュガーポット、クッキー・ビスケット皿、ティーカディなど

イギリスはヨーロッパにおいて紅茶文化が特に栄えた国の一つ。イギリスでは18世紀から19世紀にかけて、社交の一環としてアフタヌーンティーやティータイムが確立され、これが現代におけるイギリスの紅茶文化の基礎となる

ルイ16世の妃、マリー・アントワネットがお茶を好んで飲んだことが知られており、フランスでもお茶が流行

17世紀後半にはアフタヌーンティーの習慣が定着。同じ頃、イギリスでは緑茶よりも紅茶が優勢となった。イギリスでは軟水ではなく硬水を使っていたため、紅茶の風味を引き立てる硬水は相性が良かった

ボストン茶会事件。イギリスからの課税に対するアメリカの抗議行動として、1773年12月16日にボストンで発生。ボストン港に停泊していたイギリス船に乗り込み、積まれていた茶を海に投棄することで茶税に対する抗議を行った

マイセンのティーポット（1718年頃）。ドイツのマイセン地方で生産される高級な磁器や陶磁器で有名

ヨーロッパの文学や芸術にもお茶は影響を与えた。お茶の文化が描かれている、ルイス・キャロルによって書かれた「不思議の国のアリス」。マッドハッターと彼の仲間たちとのお茶会

19世紀のヨーロッパにおいて紅茶は依然として非常に重要で、広く愛飲。紅茶は上流階級から中流階級まで幅広い階層で楽しまれ、ティーカルチャーが根付いた

ヨーロッパでは、インド、スリランカ、アフリカなどから生産された紅茶が主に消費されてアッサム紅茶やダージリン紅茶、セイロン紅茶などが一般的。インドのアッサム地方でお茶の収穫

紅茶以外のハーブティーやフルーツティーもヨーロッパで人気を集めている。カフェインを含まないものも多く、健康志向の消費者にも愛されている

イギリスの王室では特別なゲストや公的な行事ではお茶の儀式が行われることがある。チャールズ3世は2022年に即位した